占いコラム 31

アシュタカヴァルガ

トランジットの吉凶を測るアシュタカヴァルガ

惑星のトランジットを見るとき、あるトランジットの影響が良い方向で現れるのか悪い方向で現れるのかを判断することは意外と難しいものです。

一般的に、西洋占星術では、スクエア(90度)やオポジッション(180度)といったハードアスペクト(凶角)は厳しい作用をおよぼし、トライン(120度)やセクスタイル(60度)といったソフトアスペクト(吉角)は調和的な作用をおよぼすと言われていますが、現実には必ずしもそうでないことが多々あります。

また、インド占星術では(西洋占星術から派生したコスモバイオロジーでも)、吉星からのアスペクトは吉、凶星からのアスペクトは凶として判断され、一般的にその傾向があることは確かですが、こちらも例外がかなりあるのが実情です。

実際、土星や火星など凶星のトランジットであっても良い働きをすることが多々あり、木星や金星など吉星のトランジットであっても悪い働きをすることが多々あります。実際、「テーマは的中したけれど、吉凶は逆だった」ということも耳にします。

そこで、インド占星術には、アシュタカヴァルガという便利な技法が存在しています。アシュタカヴァルガにはいろいろな利用方法がありますが、その中でも、トランジット惑星の影響の良し悪しを判断するときに使用すると便利です。

アシュタカヴァルガは、各星座(ハウス)の強さを、出生図中の惑星配置から計算によって導き出されたものであり、各星座の数値は、その人の出生年月日時刻によってそれぞれ異なったものとなります。

アシュタカヴァルガの数値が高い星座(ハウス)をトランジットの惑星が移動するときに運気は高くなり、数値の低い星座(ハウス)を移動するときに運気は低くなります。

※アシュタカヴァルガにおいて、各星座の数値が大きく異なる人は、一般的に、人生の波が大きいものです。一方、各星座の数値が平均的な人は、人生の波が小さいという傾向があります。

成功する人の条件

自分自身を表す1室、地位・名誉・職業などを表す10室、そして10室の努力の結果生み出される利益を表す11室の数値が高い一方、出費や損失を表す12室の数値が低い人は、社会的に成功する人が多いようです。故Richard Houck氏によると、特に、10室の数値が平均点(28)よりも高く、11室が10室よりも高く、1室が12室よりも高い人は、社会的に成功する典型的なケースであると主張しています。

実際、このようなアシュタカヴァルガのパターンを持っている人の場合、これら点数の高い10室・11室・1室などを惑星が通過するときに大きな発展があるものです。特に、動きの遅い土星や木星のトランジットは大きな運気の流れを理解する上で欠かせない重要な要素となります。

G.W.ブッシュ元大統領のサムダヤ・アシュタカヴァルガ˚
上の図は、G.W.Bush元大統領のサムダヤ・アシュタカヴァルガです。

例えば、上記のG.W.ブッシュ元USA大統領のアシュタカヴァルガでは、1室(蟹座)は32点、10室(牡羊座)は35点、11室(牡牛座)は38点ですから、この原則が当てはまっています。

西洋占星術の教本には、10室のMCに土星がトランジットするときの象意として、「試練の時期となるが、今までの努力次第では何らかの達成が得られる時期になる。」というような内容が書かれています。しかし、それが困難な時期で終わるのか、それとも何らかの達成が得られる時期になるのかを判断することは容易ではありません。

そのような場合において、アシュタカヴァルガは、10室のMCを通過する土星のトランジットが、実際には、どちらの方向で現れるのかを判断する上で重要な手がかりとなります。

これは木星のトランジットについても同様のことが言えます。木星が10室のMCを通過するとき、地位・名誉・職業などのテーマにおいて発展できるかどうか(あるいはその程度)を判断するときにも、アシュタカヴァルガが手がかりとなります。

論理的で分析的なインド占星術

アシュタカヴァルガで成功する人の条件に当てはまっている場合でも、『努力せずに寝て待つ』だけでは成功は訪れません。また、アシュタカヴァルガだけで、すべてがわかるほど、インド占星術は単純なものではありません。

インド占星術には、ヨーガやダシャーという、アシュタカヴァルガ(およびそれを利用したトランジット)よりも優先順位の高い要素や技法が存在しています。人生の何らかの分野で成功するには、出生のホロスコープにおいて、その分野に関連したハウスで強力なラージャヨーガやダーナヨーガがいくつも形成されていて、人生の適当な時期にそれを発現させるダシャーが巡ってこなければなりません。

ここで言う「出生のホロスコープ」には、基本的なラーシだけではなく、ナヴァーンシャ(9分割)、ドレーッカナー(3分割)、ダシャーンシャ(10分割)、ドヴァダシャーンシャ(12分割)、その他の各種分割図も含まれています。成功するには、これらのチャートに、強力なラージャヨーガが存在していて、ダシャーによってそれらが発現することが前提条件となります。

そのラージャヨーガが発現している時期に、トランジットの土星や木星が高い数値の10室や11室を通過している場合、その人の出世や成功について、より自信を持って予言することができます。

このように、インド占星術では、何か1つのテーマについて判断する際にも、多くの要素を細かく分析し、それらの優先順位も考慮した上で、総合的に判断していきます。

インド占星術には神秘的なイメージがあり、『インド占星術は直感的・霊的な占星術』という印象を持っている方が多いようですが、実際には、インド占星術は極めて論理的で分析的な占星術なのです。

惑星ごとに異なる個別アシュタカヴァルガ

アシュタカヴァルガには、全ての惑星に共通する集合アシュタカヴァルガ(サムダヤ・アシュタカヴァルガ)の他に、太陽・月・火星・水星・木星・金星・土星など、各惑星ごとの個別アシュタカヴァルガ(ビン・アシュタカヴァルガ)が存在しています。

トランジット惑星による影響の良し悪しを判断するときには、それら両方のアシュタカヴァルガを考慮します。

個別のビン・アシュタカヴァルガは、惑星による違いをよく表しています。土星にとって良い星座が必ずしも太陽や月にとって良い星座であるとは限らず、その逆も、また然りです。

惑星のサイクルの違い

約2年半で1つの星座を通過する土星や約1年で1つの星座を通過する木星は大きな運気を見るのに適しています。

G.W.ブッシュ元大統領の土星のビン・アシュタカヴァルガG.W.ブッシュ元大統領の木星のビン・アシュタカヴァルガ

約2年で全ての星座を1週する火星は、さらに速い運気を見るのに対応しています。

G.W.ブッシュ元大統領の火星のビン・アシュタカヴァルガ

また、太陽は、他の惑星のように逆行することがなく、約1ヶ月かけて1つの星座を規則的に通過することから、毎月(月の半ばから次の月の半ばまで)の運気の変化を的確に表しています。

G.W.ブッシュ元大統領の太陽のビン・アシュタカヴァルガ˚

早い変化に対応する月のアシュタカヴァルガ

1つの星座を約2日半で通過する月は、もっとも速く変化する細かな運気に対応しています。そして、各星座における月のアシュタカヴァルガの点数差が激しい人は、必ずといっていいほど情緒の波が激しい傾向があるのが特徴です。実際に観察すると、その情緒の変化はトランジットの月の位置と面白いほどよく一致していることがわかります。

G.W.ブッシュ元大統領の月のビン・アシュタカヴァルガ˚

惑星が表示するテーマ

アシュタカヴァルガによって一般的な運気(バイオリズムのようなもの)を判断できることは前述の通りですが、どのようなテーマについての吉凶をもっとも強く反映しているかは、各惑星が表示しているテーマによって異なります。

例えば、太陽は健康や父親、月は母親や情緒、火星は争いや怪我、水星は学習やコミュニケーション、木星は幸運や精神性、土星は試練や達成に関することなど、各惑星のトランジットは、一般的な運気の吉凶に加えて、それぞれが表すテーマについての運気を反映します。

数値が上昇するポイント・下降するポイント

アシュタカヴァルガによって判断する際、集合アシュタカヴァルガと個別アシュタカヴァルガの両方について、各星座(ハウス)での各惑星の数値の高さを調べることは重要です。

それに加え、その数値が、低い数値から高い数値へ変化する時期、あるいは高い数値から低い数値へ変化する時期は、運気が変化しやすいので注意が必要です。特に、その数値の変化が急激であればあるほど、運気の変化がはっきりとする傾向があります。

数値が低いところから高いところへ変化するときは運気が上向きになり、逆に高い数値から低い数値へ変化するときには、たとえその数値が平均より高い場合であっても、運気が下降する傾向があるため注意が必要です。

コンピュータを使用した計算

この大変便利なアシュタカヴァルガの技法はインドに古来から存在しているものの、意外なことに、インド占星術においてさえ、比較的最近になって注目され始めた技法です。

アシュタカヴァルガが最近になるまで注目されなかった理由は、手計算した場合、その計算に膨大な時間がかかってしまうからという事情もあったようです。

しかし、近年では、パソコンが普及し、占星術の計算に使用されるようになってきた結果、従来はとても面倒だったアシュタカヴァルガの計算を、とても簡単・迅速に実行できるようになりました。

そもそもインド占星術では、各種アシュタカヴァルガ(ここで説明したアシュタカヴァルガ以外にもさらに微細なものがあります)以外にも、精密な計算が必要な検討すべき要素が非常にたくさん存在しています。それらをすべて計算していると、一人分の計算に多くの日数がかかってしまうほどです。

ところが、今では、コンピュータの普及により、それら多くの精密な計算を瞬時に行うことができるようになったため、これまであまり使用されたり研究されてこなかった技法が活用されるようになってきました。

このように、アシュタカヴァルガを含め多くの精密な計算を必要とするインド占星術には、パソコンおよび占星術ソフトが不可欠のものとなりつつあります。

※インド占星術ソフト『パラーシャラの光』を使用すれば、簡単で迅速にアシュタカヴァルガを計算ですることが可能です。